
人のことなんて何もわからない。だから自分が『読みたいことを、書けばいい。』
「自分の資質がどうか?」を見極めてからスタートを切った方がいい。
──ええと、先ほど生まれつきの話が出ました。泰延さんって、小さいときから本が好きで、書くのも好きという傾向がありましたか?
田中:なんやろ……。好きっていうか、自然にやってたんでしょうね。あと家庭環境が大きいと思います。うち父親が本を読む人で、とにかく本に囲まれていました。家の部屋の壁すべてが本やったからね。
──占いをされてるんでしたっけ?
田中:そう、占い師。で、占いっていうのは、基本、中国の古典を全部読まなダメなんですよ。『易経』とか、古典を漢文のままね。だからもう本だらけだったんです。
──それはまさしく環境の力ですね。
田中:うん、環境は大事。「なぜそうなれるのか?」「何をしたら、何をゲットできるか?」っていうのが、基本的なビジネス本の考え方じゃないですか。それはそうなんだけど、その前に「自分の家庭環境がどうだったか?」「自分の資質がどうか?」っていうのを見極めてからスタートを切った方がいいんじゃないかな。“なりたい”と“なれる”は違うから。
──そうですね。
田中:“憧れる”と“なれる”は全然違う。“向いてる”が一番いいんですよ。
野菜を売るのに向いてる人は、文字なんか絶対書かずに、野菜の卸問屋になった方がいい。それで面白い本を買って読めばいいんですよ。これね、船曳建夫さんという学者さんが言ってたんだけど、
「ワインに詳しくなりたかったら、ワインの勉強して、ソムリエみたいな知識を身につけるのは遠回り。金持ちになってバンバンワインを飲めば、おいしいかまずいかってすぐわかる」と。
──確かに。
田中:そう。だからやっぱり見極めることが大事。

──見極めるコツってありますか? やりたい気持ちが強いと、向いてるかどうかって、わからなくなってくるときがあると思うんですけど。
田中:ある程度、お金を払って、「俺は、私は、憧れにだいぶ金を払ってねぇか?」と思ったら、それは向いてないんじゃないかな。
習い事とかね、ビジネス書とかね、人の憧れを食べるのがそういうビジネスやから。
極端な話、「ニューヨークヤンキースで打席に立てるか」って考えて、いくらやっても立てなそうだなと思ったら、野球で有名になろうと思うのはやめた方がいいよ。しかも野球だって、そもそもリトルリーグとかせめて中高で野球部入ってないと、厳しいよね。
でも文字に関しては、全員が書けるから、「文字を書いて有名になれるかもしれない」と思うわけよ。だから夢を食べられやすいの。
──確かに。今はSNSとかで気軽に発信できるから「ちょっといけるかも」って思っちゃう人が多いと思います。
田中:そう、これはね、AV女優が女優になる話と近いですよ。AV女優から「元セクシー女優」とかいってテレビとか映画でも有名になる女優っているでしょ。でもそれはAV女優1万人につき、1人いるかいないか。いや、AV女優10万人に1人かもしれないですよ。でも、その1人になれなかった、10万人の、人前でセックスだけして死ぬ人がいるわけじゃないですか。
──そうですね。
田中:だから「自分はそっちになってしまうのではないか」と思ったときは、自分の仕事を見直しした方がいいです。ひどいことを言いたいのではなくて、みんなが向いてることをやった方が、絶対明るく生きられる。憧れることがあることはいいことやけどね。
──向いてることはしつつ、憧れている方向に近づけていくのはどうでしょうか?
田中:これもある人に言われたんだよ。スターってさ、最初っからスターなんだよね。スターになる人って、10代とか20代で華々しく世に出るじゃない。だからそうじゃない人は向いてないんじゃないかな。
だからこそ……、だからこそ自分の好きなようにする。「何かになりたい」じゃなくて、ただ自分が面白いから書いたらいいんじゃないって。それがたまたま人の目に触れたら、面白いことになるかもしれないよ。というのがこの本の趣旨なんですよ。あとはカワウソの……あかん自分で笑ってるわ(笑)。あとはカワウソの話なんです。
──笑ってましたね(笑)。
田中:しまった(笑)。

──カワウソね。ビーバーとラッコ、全部同じだという。
田中:1トンを超えると、セイウチと言われています。
──同じだったんですね。
田中:生物学的には、全く一緒です。
──なんか、今、ちょっと今考えてはりましたけど、大丈夫ですか(笑)。
田中:(笑)。僕の説です。
──説!?
田中:説は自由。僕は「カワウソはラッコになる党」で立候補したら、たぶん当選しますよ。
──マニフェストは何ですか?
田中:マニフェストは、カワウソがラッコになることを証明する。

──なかなか時間のかかりそうなマニュフェストですね(笑)。
田中:うん、かかりそう(笑)。
──ええと、本を読むのが好きだったと。じゃあ、どちらかと言えば、本を読むのが好きな子みたいな。
田中:そうですね。
──例えばライターの古賀史健さんが「昔から書くのが得意でこういう道でいけそうだ、という自信があった」みたいな話を読んだことがあるんですけどね……。
田中:古賀さんは、若い頃、腹筋をシックスパックに鍛えて、渋谷のセンター街で上半身裸で、人に腹を殴らせてたんや(笑)。
──え!
田中:本人にそれを言うと「だいぶ脚色されてる」って言うけどね。なんか違うらしい。古賀さんの若い頃の話を総合すると……、金髪に染めてた時代がある。それから腹筋をやたらに鍛えて、友達とかに「ちょっといっぺん殴ってみ? かてぇだろ?」って言っているときがあったらしい。それから渋谷のセンター街はよく行ってたという話なんですよ。この話を総合すると……、
──いや、その総合の仕方は……(笑)。
田中:総合すると、いや、科学的姿勢じゃないですか。いくつかのファクトを総合することで結論を出すことが科学じゃないですか。だから、古賀史健さんは、渋谷のセンター街で、上半身裸で、金髪で、腹筋を人に殴らせていた。
──それだいぶやばい!
田中:それはもう僕の科学です。
そんな彼が、なぜ書く仕事になったのかはもうちょっと調査が必要です(笑)。
──分かりました。
とにかく泰延さんが小さいときから、本に囲まれて育って、それが今の泰延さんを形作ってきていたということですね。
田中:そういうことですね。面白いよ、本って。あとは古典が大事かなって思うんですよ。さっき言った、ロシア文学とかフランス文学とか、源氏物語でもいいですけど、アホほど長いものがいい。やっぱり古典なんですよ。古典って何がすごいって、書かれてから200年とか経過しているものが、今日も印刷されている。すごいでしょ?
──すごいことですよね。
田中:うん。今日も岩波書店とかはせっせと「今日も20冊くらい刷っときましょか」って本を刷ってるんですよ。200年前の、著作権も切れているやつを、丸儲けのやつを! お札を刷ってるようなもんですよ、200年間。
──いいですねぇ(笑)。
田中:うん、すごい。でもそれくらい歴史に耐えて「これは世の中から消したらあかん、おもろいから」って残っていくものの凄さ。青空文庫を見るだけでもいいですよ。タダだからね。
人の目を気にしない、真面目から脱却する。すると人生はちょっとだけ面白く変わる。
──わかりました。次の質問です。泰延さんだからこそ書ける文章って何だと思いますか?ご自身で「こういうの僕らしいなとか、僕っぽいな」みたいなものです。
田中:誰に非難されてもふざけきるってことですね。
──(笑)。
この取材をセッティングするに当たってのメールも相当面白かったです。実際メールを見れるのは数名しかいないのに、クスッと笑ってしまうポイントが毎回ありました。こういうやりとりをいつもされてるのですか?
田中:はい。自分が楽しくなるでしょ。どんなメールでも。例えば「4時に、ここで待ち合わせ」っていう要件を伝えるだけでも、そこに「着衣ですか? 脱衣ですか?」って書くだけで、皆さんの中に、「着衣かな? 脱衣かな?」って考える時間ができるでしょ。そういうのってたぶん楽しいじゃないですか。それでいいと思うんですよ。
みんなね、真面目すぎる! 真面目あかんて!

田中:会社のメールなんて特にそう。皆さんも経験ありませんか? 十何人CCに名前が連なっているメールで、件名が「Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:」ってずーっと続くやつ。すごい真面目なやつで、「クリエーティブの進捗状況は、大分いい感じですか?」ってメールが来たから、僕はすぐに「大分、いい感じですよ。湯布院、別府、血の池地獄。大分は最高です。」って書いたら、完全に無視された。別の人が「今、事務所に確認中です」ってメール打ってきて、何事もなかったかのように会話が続きました(笑)。
──(笑)。
泰延さんの話は?
田中:「おまえら真面目か」と。なんでスルーするのか。一言でもええわ、「だいぶん、と、おおいたは字が同じでも関係ない」という冷静な突っ込みでもいいけど、なんでそれスルーするんよ。夜中の2時に皆疲れてると思ったから、俺も書いたのに。
──ホスピタリティーですよね。
田中:そうですよ。そうなんですよ。Facebookとかでもよくあるやん? なにかの投稿にコメントがついてて、一人ちょっと面白いことを言おうとしてるのに、次からスルーしてるパターン。あれは良くない。あれがね、社会をダメにしてるんですよ。
──コミュニティーでもよくありますよ。そういうのは絶対拾わないと、悲しくなりますよね。
田中:そうなの。悲しくなる。
──それはわかりますが、会社で、しかも電通さんという大企業でも貫くって。
田中:だって別に、犯罪じゃないからね。
──はい、確かに。じゃあ、それが泰延節ですかね。
田中:今、この瞬間をちょっとでも楽しくするのに文字があるとしたら、楽しく使えばいい。明日死ぬかもしれないと思ったら、ちょっとくすぐった方が楽しいじゃないですか。
あのね、成功しようと思ってる人は、自分が死ぬって思ってないのよ。いつか全員死ぬってことを意識すると、毎日が面白くなる。なんか成功しようと真剣にそればっかりやってる人は、成功できない途中で死ぬんですよ、皆。
皆さん死ぬって思ってないでしょ? 僕は50歳だから、死を意識しますよ。
──意識はしてるけれど、泰延さんのような柔らかさって、なかなか真似できないです。
田中:ま、柔らかいというか、ラッコの話については僕は強行姿勢を貫きますよ。曲げる気はない。
──(笑)。
田中:すべての科学は仮説です。間違いないのは、熱力学の法則だけって言われてます。それ以外はすべて仮説ですからね。
──なるほどなるほど(笑)。
わかりました。じゃあ、それが泰延節ですね。
田中:愉快に過ごしたら、毎日がちょっと良くなると思うんだよね。
この本の帯に「人生が変わる」と書かれているよね。これは編集者さんが入れはったんですけどね。
でもまぁええかと思って。なんでかと言ったら、本当に人生が変わるからですよ。つまり真面目から脱却する。人の目を気にしない。
「ターゲットは誰」とか、「誰に刺さるか」とかじゃなくてね。誰に刺さるかって、よく言うけどさ、通り魔じゃないんだから!
──(笑)。
田中:誰に刺さるか考えようって……、そんな、ナイフ出さんでください。誰も刺さなくていい。まずは自分が面白かったらいい。

田中:「死ぬ」って言うことを意識するから人生が変わるんですよ。
死なないと思っているから、今やってることのステップを踏んでいけば成功するって思ってますよね。一直線だからダメなんですよ。毎日やることステップしていくだけだから。しんどいよ、これ。でもね、死ぬと思ったら、そこから脇道へそれていくことができる。
──はい。
田中:そう。脇道にそれたらいいですよ。
──そうですね。
本の話に戻ります。この本は書く人にとって本質的なことが書かれていると思います。書く人としての考え方や調べる資料へのあたり方とか。書く仕事っておっしゃる通り調べることがほとんどですよね。これは楽しくもあるけど、ときにしんどいじゃないですか。
田中:しんどいよぉ。
図書館に行って山のように本を調べに行って、一番がっくりするのは、30冊ぐらい資料に当たったけど同じ事しか書いてないとき。
それは結局「これ以上そのことについては調べが進んでないんや」ってことがわかる瞬間なんです。
「俺1日30冊、一応付箋貼ったのになんも調べが進んでないよ」って。それが辛い。
──ほんとですよね。
調べものもそうですが、書く仕事をしていると面白いときと、そうでもないときってありませんか? これは私個人の悩みなんですけどね。プロですから、それでも面白がってやろうといますけど。泰延さんは、そういうときはどうされてますか?
田中:ま、そういうときは、まず相手にメールを書きますね。「締め切りとおっしゃいますが、それはあなたの都合じゃないですか?」と。
──(笑)。
田中:やりたくないときはできないんですよ。やりたくないときにできたものって、結局誰の得にもならないから。
後から読み返して恥ずかしいことになってしまうし、クライアントも喜んでないはず。それがWEBに上がっても読む人もいないでしょう。やる気がないところから生まれたスパイラルって凄いから。それって人生の汚点が残るわけですよ。
ところが、最低限自分が面白がってやったことは、締め切りから遅れようが、あいつは約束を守らないと言われようが、最終的にそっちの方がよくなるんです。この本は「出しましょう」って言ってから11ヵ月かかってますからね。
ダイヤモンド社の編集者今野良介さんとのやりとりが、今いろんなところでレポートされてますけど、彼はすごいんですよ。メールのやり取りが。
先日ジュンク堂で、今野さんと2人でトークイベントをしたんです。僕たちのメール、全部さらしてますから(笑)。レポートにも出ています。
──読みました。全部出ていましたね(笑)。
田中:あれでも、ごく一部ですから。
──えーっ!
田中:メールは、多分1000通単位でやりとりしたんじゃないかな。
──すごいですね。そういう間柄だからか、Twitterでの今野さんの泰延さんへの姿勢に愛を感じます。
田中:愛だね。変態ですよ。
──(笑)
「泰延さんがツイートするのは呼吸のようなものだ」って、先日も今野さんが見守るかのようなツイートされてて……
田中:そうなんですよ。なんにもやりたくない僕でも、そういうことが起こるとなんかやるわけですから。自分が好きなことをやりすぎたら、そういう出会いがあって、何かがあるのは、多分間違いないでしょう。

田中:でも、妥協して例えば10個のうち3個、しゃーないから、お金のためにしとこ、ってやっていると、その3個を人は見ますから。「イマイチなことやっとんな」「やっつけてんな」とかね。だからやる気のあることを10個にするべきです。
──じゃあ会社員のときはどうされてたんですか?
田中:会社員のときは、辛かったですよ。だから辞めました。
だってさ、どこかの会社の、どこかの水を、どこかの20代の女子に売る、そういう仕事でしたから。
──はい。
田中:誰に水が売れるかなんて、わからないですよ。ちなみにこれ、ラベル取ってるけど、“いろはす”なんですよ?
──はい(笑)。
じゃあ電通を退職されてからは、どうですか? コラム依頼ってたくさん来たと思うんですが。全て引き受けていたんですかね?
田中:全て引き受けました。「お金? あ、いらないですよ」とか。編集者さんが「いや、でも1万円ぐらい……」と言ったら「じゃ1万円もらっときましょう」。「3万円だけは、他のライターさんにもお渡ししてるので」と言われたら「じゃ、3万円もらっときましょう」。そんな感じですよ。
(カメラに向かって)
でもこれからは、もうそういうわけにはいかないからな!
俺にも生活があるから!
──誰に言ってるんですか(笑)。
田中:社会に言っています。
(カメラに向かって)
この本、ベストセラーやから!
俺は高いんだよ。
アイム・ベリー・エクスペンシブ!
税金が来るんだから(笑)!

──売れていますもんね。
田中:ほんとはね、浅生鴨さんとも話をしてたんだけどね。自分が生活できるぐらいで、税金めちゃくちゃ取られないぐらいに、アベレージで本が売れたら物書きは一番いいんですけどね。数千部とか一万部とか。コンスタントに年何冊か出して、自分も継続して書くモチベーションがあって、それでそんなに高い税金取られずに収入があるっているのが、一番なんじゃないかなと。
──ドカンって売れすぎてしまうと、税金やらもあるし、いろいろ変わりすぎてしまいそうですよね。
田中:そうなの。
(カメラに向かって)
この本、ベストセラーやから!
俺は高いんだよ。
アイム・ベリー・エクスペンシブ!

──誰に向かって……(笑)。
田中:だから社会ですよ。よろしくお願いします。
──わかりました。

ライター、編集者。企業で10年ビジネス文書の作成→キャリア0からライターに→2017年開業、屋号は「コトバノ」。 #前田デザイン室 『#マエボン』『#NASU本 前田高志のデザイン』編集長。日本一のオンラインサロン編集者を目指す。セミナーもはじめました。アボカドのぬか漬けと明太子が大好き。ご依頼・お問い合わせはDMで。

京都文化と着物が得意なライター/ビンテージ好きが高じて着物生活/編プロ在籍時はガイドブック・情報誌の編集ライター/初心者さん向け着物アドバイス/帯や足袋のハンドメイド / ブログ

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