山口周×箕輪厚介緊急対談 「これからは“喜怒哀楽”・“モチベーション”・“好き嫌い”の時代になりますよ」 山口周が指し示す、新しい時代に評価される人間像

箕輪編集室で毎月発行している書店員向けメールマガジン「箕輪書店だより」。
ニュータイプの時代 ‐新時代を生き抜く24の思考・行動様式-』を読んで感銘を受けたという箕輪厚介さん自らがインタビュアーとなり、著者である山口周さんにお話を伺いました。

これからの時代で評価される人間像を圧倒的な解像度で示した山口さんと時代の寵児となった編集者・箕輪さんの対談をお届けします。

ニュータイプの時代は・・・10年前からその到来を予感していた!

箕輪:ニュータイプの時代』を読みました!本当にいい本だなと思って、今回お話を聞きたいと思ったんです。本のなかで「優秀さの定義が変わった」とおっしゃっていますが、このテーマで本を書こうと思ったキッカケは何だったんですか?

山口:例えば学者の落合陽一さんだとか、株式会社コルクの佐渡島庸平さんだとか、箕輪さんもそうですけど、いわゆる従来世間で「典型的な優秀さ」から外れたタイプの人材が世の中で活躍し始めているな、という感覚が10年くらい前からあったんですね。

箕輪:10年前からですか!?ムチャクチャ早いですね!僕なんてそれを感じてるのは、ここ2年くらいなのに・・・。

山口:以前、僕は戦略コンサルティングファームで働いていたのですが、戦略コンサルタントはいわゆる「典型的な優秀さ」を象徴する存在でした。企業の抱える問題を素早く解決して正解を出す。その正解にたどり着くまでの「スピード」で競争優位を築いています。戦略コンサルティングファームに仕事を依頼することは、端的に言うと時間を買ってるようなものなんです。

箕輪:自分たちが考えるべき問題を丸投げして考えてもらうんだ。

山口:手を尽くせば自分たちで考えても同じ正解にたどりつけますが、戦略コンサルティングファームに1億円払えば、解決にかかる時間を1年から1か月に短縮することができる。だから時間を買ってることになるんですよ。

箕輪:なるほど。

山口:戦略コンサルティングファームも、黎明期には誰も思いつかないすごいサービスを生み出していたんです。しかし、2000年代に入って、世の中に大きなインパクトを与えるコンテンツを生み出すことがほとんどなくなってしまいました。

箕輪:それは当時の戦略コンサルファームで働いていた人たちが一般企業の経営層より圧倒的に頭が良かったってことですか?

山口:特殊な才能をもつ人が集まってたっていうのもあると思います。ただ、その頃は今と違って情報の非対称性がかなりありました。例えば大前研一さんが活躍されていた時代、彼とつき合ってた経営者の人たちに話を聞くと皆さん口を揃えて「今から考えたら当たり前なんだけど、当時は大変新鮮に思えたんです」という言い方をするんですよ。

経営理論はアメリカで開発されて、当時はコンサルティング業界の人間しか知らなかったですし、ビジネススクールに通わないと勉強できませんでした。関連する本もありません。情報の非対称性がかなりあったからこそ、90年代後半くらいまでは本当に価値のあるコンテンツをつくることができたんです。

でも、2000年代に入って世の中に大きなインパクトを与えるコンテンツをつくる人がパタッといなくなるんです。その反面、プレゼン資料のつくり方やロジカルシンキングなど、非常にパーソナルなスキルについてアウトプットを出す人が増えました。業界全体が時間を買うビジネスモデルにシフトしていったんです。

箕輪:まさにAI的ですね(笑)。

山口:戦略コンサルティングファームは、本来は経営戦略を考える企業の社長が顧客です。でも世の中に社長はすごい少ない。しかも、経営戦略は毎日考えるわけではなくて、数年に1度考えるものです。ですから、社長だけを顧客とするビジネスモデルでは必ず行き詰まっちゃうんですよ。

ではどうしたのかと言うと、顧客を増やすしかない。社長を増やすことはできないので、その企業の役員クラス、そして部長クラスを顧客にしたんです。彼らにとって一番のアジェンダは自分が出世することです。上司から指示されたことを素早くこなして、良い提案を出す手伝いをすることが戦略コンサルティングファームの仕事として増えていきました。

そんな様子を見ていて、世の中における「優秀さ」の定義が変化していると感じたんです。かつては僕も数値や指標を分析して、正解だと思える回答を瞬時に出す能力に憧れていました。でもよく考えたら、その能力はレンタルしたほうが効率的です。自分が憧れていた「優秀さ」は世の中にインパクトを与える「優秀さ」ではなくなってしまいました。

ニュータイプの時代は・・・「アスリート的な働き方」から「アーティスト的な働き方」になる!

箕輪:まったくの肌感覚なんですけれど、僕もここ2年で世の中が急激に変わったと感じています。いわゆるビジネス的なものがオワコン化してるイメージで、イケてる経営者ほどそのことに気づいてるんです。だからアートに関心を示したり、メチャメチャ遊んだりしちゃってる。

死ぬほど頑張って寝ずに仕事をしても、それが逆にイケてないっていう空気があるんですよ。僕も2年前に「News Picks Book」というレーベルを立ち上げて、本当に死ぬほど働いてビジネス書を出して、10万部突破!重版決定!と散々煽って、その競争の中で頑張ってきました。でも最近は毎月本を出して、「他社よりも何万部売れた!」という部分で勝負する人生を辛いと感じるようになったんです。戦いの螺旋が一生終わんないんですよ。

山口:アスリート的な働き方ですね。

箕輪:キングコングの西野亮廣さんが分かりやすいですけど、ちょっと変な物語をまとうと、急に共感とお金と人が集まってすごい支持を得ることができる。それを知っちゃうと、戦いの螺旋の中には戻れないですよ。ビジネススキルやビジネスノウハウのようなものが完全にオワコンになったことをひしひしと感じてた時に、山口さんの書いた『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』や『ニュータイプの時代』を読んで、「これだ!」って思ったんです。

山口:アスリート的な働き方は、つまるところ数字なんですよ。人類で100m走が一番速いのはウサイン・ボルトですよね。ウサイン・ボルトのことはみんな知ってます。でも世界で2番目に速い人のことは誰も知らないわけですよ。

箕輪:なるほど、それが数字の世界ですね。

山口:結局、全部1位がもっていっちゃうんです。じゃあ、ウサイン・ボルトはどのくらい速いのかというと、100mを10秒弱なんですね。僕も100mは20秒で走れます。たった2倍しか生産性が変わらないんです。

一方で「意味」が価値をもつ世界では、つくれない人は無価値なんですよ。一方で、つくれる人は無限の価値を生むことができるんです。例えば文学作品を書かせようとした時に、1週間かけても小学生の日記レベルの文章しか書けない人と、1日で圧倒的に面白い作品をつくれる人がいますよね。両者の間には生産量において圧倒的な差が生まれます。この差は本当にデカいですよ。採用する企業としては本当にリスクの大きな世界が到来します。

箕輪:ある意味、今までは大して差がつかない時代だったんですね。給料についても、上も大したことないけど下もたかが知れている時代だった。でも、これからはそこに大きな差が生まれる。山口さんのおっしゃるとおり、「意味」をつくり出せる人間か、何も生み出すことのできない人かに分かれる感じはありますよね。

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?

山口:「意味」は多様なので、ネットワークのなかで自分をどこに置くかの判断で花開く人と開かない人がいます。どこに持って行っても意味があるっていう人はあんまりいないと思うんですよ。メチャメチャ美味いカレーうどんをつくれる人に詩を書かせても意味がない。そういう人は腹が減っている人が集まるカレーうどん好きのコミュニティのなかで意味が生まれます。逆にすごい面白い詩を書ける人を、そういう場所に連れてってもあんまり意味がないですよね。

箕輪:giveできるものがないとっていうことですよね。例えそれが超ニッチでも、自分が何か与えられるものがあって、欲しい人がいれば成り立つ。

山口:中世のヨーロッパに自由都市と呼ばれる都市がありました。封建領主から逃げた人が集まってできた都市のことです。そこでは、訪れた人は1年と1日いることができれば市民権を得られるルールだったらしいんですよ。これはつい最近気づいたんですけど、要するに1年いることができるということは、周囲から「あの人はいてもらったほうがいい」と思われてたってことですよね。

箕輪:おもしろいですね。

山口:例えば新しい人が自由都市に入ってきて、その人がパンをつくれたとする。すでに都市の中にパン屋をつくれる人が3人いて、しかもパン作ってみたらあまり美味しくないとなると、やっぱりいられないじゃないですか。

箕輪:新しい価値を生まないと意味がないということですね。

ニュータイプの時代は・・・グローバルニッチを狙え!

山口:僕は坂本龍一さんと小室哲哉さんの対比がすごく面白いと思っているんですけれど、結果的に長く活躍しているのは坂本さんなんですよ。ファンの数を比較すると日本では圧倒的に小室さんの方が多いんです。ただ、坂本さんの強さは世界中にファンがいることです。日本で100万枚売る音楽ユニットと世界100か国で1万枚ずつ売る音楽ユニットでは、後者の方が絶対にクオリティが高いと思っているんです。

今までは、地元のコミュニティ1000人の中で共感してくれる人を見つけろって言われても、結構きつかったと思うんです。そうすると、どうしてもマスを相手にしなければならないので、みんなが「なんとなく」好きになってくれそうなものをつくらないといけなかった。しかし、今はデジタルが発達して、世界で1万人の中にいる1人のファンにアクセスすることが可能になりました。ローカルでメジャーなポジションをとるよりも、少ないんだけど、必ずどこにでも共感してくれる人がいる構造をつくるようにしたほうが、世の中が楽しくなると思うんですよね。

日本のビジネスは、10人に3人くらいが買うことを目安に考えているんです。でも、これからの時代は、買う人間は100人に1人、あるいは1000人に1人なんだけど、ものすごい切っ先を鋭くして、遠くまで届くつくり方をしなくちゃいけないんです。
現実にバルミューダなんかは、そういうビジネスなんですよ。25,000円のトースターを買う人はたぶん100人に1人しかいないんだけど、すごくエッジが効いているので遠くまで届くんです。

箕輪:この世にそれしかない価値ですよね。まさに『ニュータイプの時代』にも書いていたグローバルニッチを狙えという話は絶対そうだなと思ってます。尖ったことやっても、今はSNSがあるので、それが好きな人が見つかりやすい。「グローバルで考えたらニッチでもいけるよね」って話ですよね。みんなグローバルニッチを狙わないと、それこそGoogle以外は必要ない世の中になっちゃいますもんね。

ニュータイプの時代は・・・喜怒哀楽が復権する時代だ!

箕輪:グローバルニッチの文脈で話をしたいのですが、今の時代は共感する人が少なくても成り立つと言うけれど、蓋を開けてみたら、「やっぱりイケてる人はイケてるよね」という現実もあると思います。ニッチな世界で勝負するにしても、バルミューダみたいなクオリティじゃないと生き残れない。そこを目指さなきゃいけないなと思うんですけど、ほとんどの人にとっては今まで以上に厳しい世界になるんじゃないですか?

山口:これからの時代は、喜怒哀楽がキーになると思ってます。箕輪さんのおっしゃるとおり、世の中には「狭く、深い」コンテンツを目指しているものの、実際には「狭く、浅い」コンテンツになってしまっているものが多い。

箕輪:まさにそう。我々は少数の人に支えられてますって空気感だけあるんだけど、単純にクオリティ低いものが乱立している状態があると思います。

山口:それはやっぱり淘汰されちゃうと思いますけどね。だからエネルギーがないものは消えてしまうと思います。だからこそ、これからはその源泉である喜怒哀楽がすごく大事になります。この間、スリランカでリーダー育成の仕事をしている人と食事をしたんですが、要はいても立ってもいられなくてやってるんですよ、その人は。

箕輪:スリランカを良くしようとしてるわけですね。使命感から行動してるというか。

山口:もう「怒り」や「悲しさ」といった感情に突き動かされているんですよ。7年くらい前、イノベーションの本を出版した時に、いろいろな人にインタビューしました。すごい面白かったのが、周囲からイノベーターと言われていて、イノベーションを起こしたと言われているんですけど、当の本人はイノベーションを意識したことほとんどないんです。この病気をなくしたいとか、事故で怪我する人をなくしたいとか、本当にパーソナルな課題意識をもっているだけなんですよ。「絶対にこれなくしたい!」と思ったり、「こういうことが起きたら絶対に楽しい!」と思ったり、喜怒哀楽に突き動かされている人が結果的には勝ってるんですよ。

箕輪:それはメチャメチャ分かりますね。僕は塩田元規さんというゲームメーカー・アカツキの社長の本をつくったんですが、塩田さんはデータや統計に裏打ちされたゲームが売れなくなったと言ってるんです。一方で、担当者の目が異常に燃えていて、よくわからないけれど任せてみたら、それが大ヒットしたらしいんですね。

それがきっかけで経営戦略的にデータに頼らないようにしているんです。本当に死ぬほど数字を突き詰めた人だからこそ気づいたんだと思うんですけど、資本主義で頑張っていた人ほど、その限界に気づいてものすごい勢いで喜怒哀楽の世界にシフトしているのを感じるんですよ。

山口:『ニュータイプの時代』にも書きましたけれど、これからはモチベーションの勝負になってると思うんですね。テクノロジーもお金も、ありとあらゆるものが手に入る時代において、それは競争優位にならないっていうことです。では何が競争優位になるのかというと、モチベーションだと思うんですよね。そして、モチベーションのもとは何かというと「喜怒哀楽」なんですよね。

箕輪:ロジカルでは止めようがないことですよね。

山口:だから喜怒哀楽を持って仕事してる人には絶対勝てないんですよね。

箕輪:絶対そうですね。

ニュータイプの時代は・・・エモーショナル・ポートフォリオ・マネジメントが鍵となる!

山口:企業にとってこれから大切になるのは、喜怒哀楽をマネジメントすることだと思いますよ。エモーショナル・ポートフォリオ・マネジメントとでも言いましょうか。社員の感情をポートフォリオとして「あいつの怒りは今どうなってるんだ?」とか「あいつは今、面白がっているのか?」とか、そういった部分をマネジメントするイメージです。

逆に「あいつは最近怒っていない」と感じたら「違うプロジェクトをアテンドしてみよう」といった具合で、感情と仕事をうまく組み合わせて企業活動に活かす。それは数字とかデータに表れるものではないんです。

クリエイティブなアイディアがどんどん出るチームと、そうでないチームの決定的な差は何かというと考えている時間の長さなんですよ。1日8時間の仕事の間にしか考えない人と、24時間ずーっと考え続けている人を比較したら、アイディアは結局確率の問題なので長い間考えた人が必ず勝つんです。

箕輪:まさにその通りですね。僕はハワイに行こうが、プールで泳いでようが、基本的に「本はこれからどういうテーマが来るんだろう」と、ずーっと考えてます。なぜそんなことができるのかというと、別に仕事だと思っていないからで単純に楽しいからやってるんです。

山口:好きでやってるってことですよね。

箕輪:打席数や脳の回転数が違ってきますよね。最近の山口さんのツイートで「身も蓋もないかもしれないけど、どれだけ打席に立つかが意味をつくるんだ」と書いていたのを見たんですけど、その打席の裏にはその人がもつ喜怒哀楽の熱量があると思うんです。川だのプールだの、僕が毎日いろいろなところに行っているのは、感覚に従って楽しいことをやり続けた方がいいような気がしているからなんですよね。

今日、僕の中で一本線が通ったのは、楽しいことをやり続けるのは、自分のモチベーション・タンクを減らさないようにしているからだと感じました。もし「毎週5日は必ず会社に来い」と言われたら、モチベーション・タンクが空になって、つくる本が超つまらなくなるような気がします。自分が完全に発散できる状態に身を置くことが大事ですよね。

山口:だから企業で一番重要なのは、そのマネジメントをちゃんとやれるかどうかなんです。

箕輪:今まで潰してきた部分ですよね。「お前の喜怒哀楽なんて関係ないから」とか「9時〜18時でこれをやれ」って。

山口:公私混同するなっていうことですよね。世間でいろいろ言われてることは実は真逆なんですよ。

ニュータイプの時代は・・・「正しい」ことではなく「共感」されることが重要だ!

山口:最近思うことがあるんですけど、自己の強みについて、多くの人がその認識を誤りがちだと思っています。努力して身につけて、自分ではすごいと思っているスキルがマーケットであまり評価されないんです。

むしろ、本人に努力している自覚がなく、ごく自然に発揮しているスキルのほうが結果的にユニークで、他の人にできないものだったりするんです。僕はコンサルティングファームで分析や統計を勉強して、綺麗なストラテジーを描けることが強みだと思っていたんですけれども、実はそれをもっと上手にできる人はたくさんいるんですよね。

箕輪:それ是正するためには、いわゆる自分に嘘をつかずに、自然にできることをすればいいという感じですか?

山口:僕の場合、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』を書いた経験が大きな転機になりました。これは僕が戦略コンサルティング業界に入った最大の弊害のひとつだと思っているのですが、何か文章を書く時に根拠がないことを書けないんですよ。

コンサルティングファームでは何か結論を出す時に、根拠をつけることを叩き込まれます。自分が書いた昔の本を読み返すと、すべての主張に根拠をつけていて、ものすごい過剰に防衛しているんです。

箕輪:主張のために根拠があるのではなく、根拠のために主張があるくらいのイメージですか?

山口:そうなんです。きっちりした根拠を示すことで、「この人は八方に目が届く人なんだ」と思わせたい気持ちがあったんだと思います。非常に固い結論とそれを裏付ける確固たる根拠がないと、人から批判されちゃうんじゃないかと思ってたんです。その防衛レベルが全部で10段階あるとすると、戦略コンサルタントとしてアウトプットを出していた時は、10段目、9段目くらい、初期の著作を書いていた頃は7段目、6段目くらい、そして『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』を書いた時は、その防衛レベルを一気に3段階目くらいまで落としたんです。

だから、実はあの本はすごく脇の甘いロジックで書かれているんですよ(笑)。ただ、それまで僕が書いた本には「正しい」「間違ってる」というフィードバックを貰うことが多かったのですが、あの本を出版した時に初めて「共感した」というフィードバックを貰えました。今までとは全然違う世界が開けたなという感覚がありました。

箕輪:なるほど。読者からの感想が「理解」から「共感」になったんだ。

ニュータイプの時代は・・・「好き」を表明することが大切だ!

山口:最近、僕はどうすれば友達ができるんだろうと考えているんです。その中で、確実に言えるのは「好きなものが一緒だと友達になれる」というのがあります。「好き」にはコミュニティをつくるパワーがあるんです。

箕輪:本当にそうです。オンラインサロンに人が集まる理由もそうで、以前はTVが6チャンネルくらいしかなかったから、共通の話題で盛り上がれたんですけど、今はスマホがあって好きなものだけを見るようになっているので、好みが細分化しすぎてしまってるんです。共通の居場所がなくなってきちゃってるんですよね。僕のオンラインサロンに所属しているだけで、メンバーには落合陽一が好き、ホリエモンが好きっていう共通の世界観があるからすぐに会話ができるんです。

山口:「だって好きなんだもん」っていう根拠のない好きを集めると、それがコミュニティーになってマーケットになる。世間では「正しいことを言うことが重要だ」とか「好き嫌いで判断するな」とか「感情でものを言うな」とか言われているのですが、仲間を見つけようと思ったら「好き」「嫌い」の文脈で話をするのが一番早いんです。まずは何が好きで何が嫌いかを表明することが大切で、そうでないと仲間かどうか判断できないと思うんです。

箕輪:多くの企業は、そんなものは表明はすべきものじゃないって感じですもんね。

山口:そうなんです。だからどうなるかというと、企業のホームページに書かれているメッセージが政治家の答弁みたいになるんですよ。日本の家電メーカーのホームページで見ると椅子から転げ落ちるくらいびっくりするんですけども、読んでも何にも入ってこないんですよ(笑)。

要するにパーソナリティーとして全然浮かび上がってこないんです。この会社は人に例えるとどういう人なんですか?という質問をした時に「ジェームズ・ボンドみたいな人です」とか「マイケル・ホイみたいな人です」とか「ジャッキー・チェンみたいな人です」とか、何もイメージできないんですよね。これでは誰も味方をつくれない。 

箕輪:集まりようがないですもんね。

山口:好かれるってことは、嫌われるっていうことなので。嫌われたくないって思うと、結局誰からも好かれない状態になっちゃうんです。

ニュータイプの時代は・・・「仕事」と「遊び」の境界線があいまいな人間ほど活躍する

箕輪:面白いなと思うのは、5年前までは「便利さに限界はない」とみんな言ってたような気がするんですよ。「ここまで便利なものはいらないよ」と言っても、「いや人間は便利なものがあれば使うから」と反論が来る。そういう要素が完全になくなるわけではないけど、最近は人々が求めているものが「便利さ」から「好き」に置き換わっているように感じるんです。

山口:イノベーションの理論ってS字を描くって言われていて、既存の技術体系の中では、もう便利さが限界に来ていると思うんですね。馬車が自動車になる、あるいは10馬力だった出力が50馬力になるといった変化には確かに価値があります。しかし、100馬力の自動車が500馬力になっても、便利さは変わらないじゃないですか。

そうなると過去のものが意味的なものとして再評価される。例えば、今、船はどんどん便利になっているのにも関わらず、セレブはヨットを買うわけです。ヨットは一番原始的な船で風が吹かなかったら動かないのですが、それをわざわざ買うんです。

他にも今の時代のセレブの遊びは、田舎に行ってガーデニングをやる。これは百姓の仕事なんですよ(笑)。あとは馬に乗って狩りに行く。これは狩人の仕事なんです(笑)。現在はそういった原始的がある種の「意味」を帯びて再評価される時代なんだと思います。

「仕事」と「遊び」を分けるものは何なのか。心の持ちようが大きいと思っています。何かをつくることは必ず面白みがある。それに報酬が発生する、あるいは上に管理者がいるなど、些末な要因で「仕事」か「遊び」かが変わってくる気がします。箕輪さんの活動も「仕事」なのか「遊び」なのか、微妙なところがありますよね。

箕輪:メチャメチャ微妙です(笑)。

山口:その境界があいまいな人ほど、今活躍している気がするんです。

箕輪:本当にそうですよね。僕は「仕事だな」と感じたら逃げるようにしています。その時点で絶対ダメだと思うんです。打ち合わせもよくドタキャンをするんですけど、「行かなきゃな」って思い始めたら、絶対にバリューが出せなくてダメになるから、そうなったら帰るようにしてます。

山口:・・・・・見習いたいと思います。

ニュータイプの時代は・・・プロデューサー型のイノベーターが必要だ!

箕輪:これからは「遊び」の時代と言うじゃないですか、事務的な仕事は全部AIがやってくれるので人間が暇になる。ホリエモンや西野亮廣さん、もしかしたら僕なんかも周りに共感者が集まって、AI時代の貴族みたいになれるのかもしれないけれど、そうなれる人は正直あんまりいないじゃないですか。

これからの時代は、みんなが緩やかに遊んで暮らす世界になるのか、それともセレブ的な遊びを謳歌する人間と、ベーシックインカムで養われる人間に分かれてしまうのか?山口さんはどんな世界をイメージしてますか?

山口:遊びをプロデュースする人と参加する人に分かれるとは思うんです。ただ、遊びに参加する人にも、参加する人なりの価値が生まれる仕組みがつくれればいいと思ってます。イニシアチブをとる人だけでは遊びは成立しません。参加者にはある種のネットワークの外部性が働きますので、ファーストフォロワーが出てくることで、セカンドフォロワーも出てくるといった価値を生んでいるはずなんです。

もうひとつは、このジャンルではプロデューサーになるけれども、別のジャンルではセカンドフォロワーとして参加する、また別のジャンルでは完全なフォロワーといった具合で、個人の中でもポートフォリオができていくんじゃないかなと思っています。

箕輪:そうですよね。

山口:ただ、遊びをプロデュースすることはセンスがいると思いますね。日本はものづくりでイノベーション起こした人が尊敬される国なんです。松下幸之助さんや盛田昭夫さん、本田宗一郎さんは全部ものづくり系のイノベーターなんですけど、僕は小林一三さんみたいな人がこれからの時代のロールモデルになるのではないかと思っています。

彼は徹底的に遊びで事業をつくった人なんですよ。最初は電鉄会社に入って、経営が安定した後は、宝塚歌劇団を創設したり、甲子園大会を考えたり、阪急百貨店を立ち上げたりしたんですね。これからの時代は、彼のような「こんな世の中になったらもっと楽しくて、豊かで、瑞々しいよね」という未来を描けるプロデューサー型のイノベーターが多く出てきたら良いと思っています。

ニュータイプの時代は・・・熱狂できるものを見つけたら勝ち!

山口:役所に勤めていた知り合いが昔から釣りが好きで、退職してから佐島の漁業協同組合に入ったんです。彼はタコ研究の最先端を行く学会にも出入りして、タコは何に引きつけられるか、といった最新の研究成果を知っていた。それをタコ漁に応用したんですよ。そうしたら、あっという間にタコの漁獲量で経験豊富なベテランをぶち抜いたんです(笑)。「年収は役所時代の倍になった」と言っていて「やっぱりこれだな」と思いました。

箕輪:なるほど。儲かるとか関係なく、熱中できるものに飛びついちゃったってことですね。

山口:彼はずっとタコのことを調べるのが好きで、研究していたから「なんでこんな獲り方してるんだろう」とか「もっとこんな風にした方が集まるはずなのに」という疑問を持っていたんですね。それでいろいろ試した結果、成功したんです。

箕輪:熱中できることを見つけたら勝ち、みたいな部分はありますよね。幻冬舎は本当に古臭い会社なんですけど、見城さん(幻冬舎社長)が言ってる「熱狂しろ!」ということが一周回って、今は最先端になっている気がします。「好きなら何でもいいんだよ」という雰囲気があるんですよ。

山口:言葉の角度は様々だと思うんですけどね。やっぱりエモーション、喜怒哀楽、モチベーションといったものが、競争や数値、ロジックよりもはるかに重要な時代になってきたってことですよね。個人としても組織としても。


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この記事に携わった人たち
【編集】柳田 一記

リーマンライター。電力会社、外資系金融会社で広報業務を担当。取材記事、プレスリリース文書、インタビュー記事多数執筆。

【書き起こし】佐藤 裕美

デザイン会社勤務、編集・デザインに携わる。公立文化施設や観光施設の広報物の編集制作から個人農家のロゴ・パッケージまで多岐にわたる。紙・web・コミュニティ、様々な熱のあるコミュニティ作りを探索中。編み物が好き。

【撮影】オオタケ ダイヤ

カメラマン、動画ディレクター。2017年末に会社を退職し、箕輪編集室で人生を変えることを決意。500時間箕輪さんに密着し、映画『箕輪大陸』を制作→2018年に「D-Studio」を開業。映画『凜』、GUやANAの採用広告撮影、小野照崎神社の年間プロモーションなど、写真撮影から動画制作まで幅広く手掛けている。

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